鼻レーザー手術 体験記

朝が来た。

いつものように鼻がつまり、酸欠気味な状態で目が覚める。

息が吸えないというのは本当に苦しい。

脳細胞も死滅しているに違いない。

脳のレントゲンを撮ったことはないが、長年脳細胞のニューロン達に酸素をろくに与えず酷使していたのだから、死滅してスカスカになっていることだろう。

だがしかし、今日でその生活に終止符が打たれる。

わが脳みそのニューロン達にこれでもかと酸素を送ることができるようになるのだ。

そう、私は今日ある手術を受ける。

『鼻レーザー手術』を受けるのだ。

鼻レーザー手術とは、鼻づまりの原因である、鼻の中の腫れあがった肉の壁をレーザーでジュウジュウと焼くことで肉の面積を減らし、空気の通り道を作るのだ。

鼻づまりには、これまで色々試してきた。

耳鼻科に通って鼻の中を掃除してもらい、処方された薬を飲み続ける・・・・治らない。

鼻の横にあるツボを押さえる・・・治らない。

鼻の頭をつまんで、息を止めて頭を上下に動かす・・・治らない。

そして市販の点鼻薬を使う・・・余計ひどくなる。

そして今日、ついに『鼻レーザー手術』を受けるのだ。

最後の頼みの綱である。

だが、私はとても不安に襲われている。

それは「とても痛い”かもしれない”」という恐怖があるのだ。

もちろん、耳鼻科の案内では「しっかり麻酔をするので痛くない」とうたっている。

しかし、私は「とても痛かった」という情報を事前に得てしまっているのである。

会社の同僚や、ネット記事のライターが「とっっっても痛かった。死ぬかと思った。」と言っているのだ。

反対に「まったく痛くなかった」というライターもいる。

半々なのである。フィフティフィフティ。半か丁か。

でも、それでも私は受ける決心をしている。

なぜなら、つい先日、私はひげ脱毛の施術を受け、地獄のような痛みに耐えることができたからだ。

痛みの先に、エデンの園がある。

エデンの園に行きたい!

そして私は、耳鼻科に鼻レーザー手術の申し込みをした。

事前に予約を取っており、今日はその日なのだが、実は予約を取ろうと耳鼻科に行った日に、

「お時間あれば、もうこの後すぐできますよ。いかがしますか?」と

看護師の方から優しい笑顔で案内された。

私は「あ、後日にします。これから用事もありますので。」と、さわやかな笑顔で即答した。

内心はもうドキドキである。

「え?そんな気軽にできるものなの?え?勢いでしていっちゃおうかな。いやダメ、怖い。」と

看護師さんに案内された瞬間、0.1秒で思考が巡り、断った。

だってまだ心の準備ができてないんだもん。

予約は、一か月後の日を指定した。

心の準備に一か月が必要というわけではなく、用事があったからだ。

そして今日その日がやってきた。

覚悟はできている。

もう、痛いということを当たり前にしよう。

そう思い、病院に入り、受付をした。

看護師の方は相変わらず優しい笑顔をして迎えてくれた。

そして、一枚の紙を渡してくれた。

「事前によく読んで、内容にご了承いただきましたらサインをお願いします。」

(ご了承?サイン?)

そう、これは手術前に署名する「誓約書」である。

私は恐る恐る読んだが、読んでいるうちに私の固い覚悟はどんどん柔らかくなっていった。

「誓約書」には

・麻酔をしますが、稀に効かない方もいます。痛みを感じた場合は申し出てください。

(うわー、やっぱり痛い時があるんだー。えー麻酔は効くほうだけど。。。あー、ひげ脱毛も麻酔があったけど、結局痛かったんだよなぁ。)

・稀に、レーザーによる施術で、粘膜に穴が開き、息を吸うたびに音が鳴る場合があります。

(え?え?どういうこと?一生鳴るの?一生背負うの?そんなことある?稀ってどのくらい??)

・ごく稀に、肺に致命的な障害を与える場合があります。

(・・・・・帰りたーい!)

でも、人間の心理というのか、一度病院に入ったら、そこで帰ることのほうが恥ずかしいと感じてしまい、私は何食わぬ顔で一筆サインをし、看護師の方に「誓約書」を渡したのである。

とある心理学の実験で、密室に何人かいる状態で、部屋の中に煙が立ち込めてきても、他の人が逃げようとしなければ、その被験者は逃げずにとどまってしまうという話を、私は思い出していた。

看護師の方はとても優しい笑顔で受け取ってくださった。

予約していたこともあり、数組の来院者がいたのだが、すぐに私の名前が呼ばれた。

特に手術室があるというわけではなく、耳鼻科に行った方なら想像がつくと思うが、先生と向かい合わせになる椅子に座り、まずはいつもの鼻の掃除をした。

そして、先生は優しい笑顔で「よろしくお願いしますね。」と言ってくれたので、私も「よろしくお願いします。」と答えた。

その病院には子供がたくさん通院していることもあるのだろう。

先生はアンパンマンのシャツを、白衣の下に着ていた。

アンパンマンのいろんなキャラクターが笑顔で私に「大丈夫だよ。怖くないよ。」と語りかけてくれた。

手術が始まった。

と言っても、いきなりレーザーが登場するわけではなく、まずは麻酔をし、麻酔が効くまでは一旦ロビーで待つ時間があるのだ。

麻酔は注射ではなく、ガーゼに麻酔をしみこませたものを鼻の中に詰め、麻酔を効かせるのだ。

片方2枚ほどのガーゼを、両方の鼻の穴に入れ、15分ほどロビーで待つ。

私の不安はぬぐえていない。

なぜなら、まだ鼻に感覚があるからだ。

過去に、歯医者での親知らずを抜いた時の注射麻酔や、野球の練習で爪をはがした時の手術で注射麻酔をした時は、本当に感覚がなくなる。

その感覚がなくなる感覚(?)には程遠い感覚なのだ。

「イタベアさーん」

呼ばれた。

本当にこのまま施術するのか。

やっぱり、少なからず痛いものなんだ。

もし本当に痛くても、エデンの園に私は行くんだ。

そう思いながら、椅子に座った。

「はい、それでは仮麻酔が終わったので、本麻酔をします。」

(・・・仮麻酔?本麻酔?)

そういうと先生は、たくさんの麻酔を染み込ませたガーゼを持ってきた。

片方に9枚ずついれるのだそう。

いや、そんな入るのか?

一枚ずつ入っていく。

ピンセットで奥までガシガシ詰めていく。

しかし、仮麻酔は思いのほか効いており、ガシガシ詰められても痛くはなかった。

アシスタントの看護師の方が、先生がガーゼを一枚づつ詰めるたびに、数えていく。

人の体に入るものなので、しっかり数えているのだろう。

そんなことを思いつつ、両方の鼻の穴に合計18枚の麻酔入りガーゼが詰められた。

「はい、ではまた15分ほどロビーで待っていてください。」

ロビーで待っていると、麻酔がどんどん効いているのが分かった。

今度は上あご全体の感覚がなくなっていった。

歯を噛みしめても、上の前歯に感覚が全くない。

親知らずを抜いた時と同じくらい麻酔が効いてきた。

何なら、鼻水とよだれが出てくる感覚もないので、ティッシュで押さえながら、ロビーで待っていた。

これは大丈夫かもしれない。

安堵の気持ちが、少し不安を押しのけてくれた。

「イタベアさーん!」

15分が経ち、呼ばれた。

椅子に座ると、今度はレーザーの手術器具が用意されていた。

先生の説明によると、炭酸ガスレーザーを粘膜に照射し、焼いていくとのこと。

まずは鼻に詰めた麻酔ガーゼを一枚ずつ取っていく。

左から順番に「1枚」「1枚」「2枚」「2枚」・・・と、先生が取りながら数えるに合わせて、看護師さんが数えて確認していく。

体の中に入れたものをちゃんと取り出すというマニュアルが整っているのだろう。

安心である。

手塚治虫のブラックジャックに、メスを手術患者の体内に入れたまま手術を終えてしまい、後になって気づき、結果、時が経ち、体の体液がメスを包み込み固まり、患者の体を守ったという話を思い出していた。

この時も麻酔が完全に効いているので、ピンセットを突っ込まれても全く感じない。

・・・「8枚」「8枚」・・・

右の鼻の最後の9枚目を取り出そうとしたところで先生が焦りだす。

9枚目が鼻の中にないようで、抜き取ったガーゼを数えている。

どうやら一度に2枚取り出したガーゼがあったらしく、ちゃんと左右9枚ずつ取り出せたようだ。

私の心臓もちょっとドキドキしている。

ついに手術が始まった。

左の鼻の中に細いレーザーが挿入され、「ピッ」と一回目の照射がされた。

(痛くない!)

もう私の不安は消し飛んだ。

しっかり麻酔が効いているため、当然だが、痛くないのだ。

何回も炭酸ガスレーザーが照射されていく。

鼻から白い煙が立ち上がる。

ネット記事にも書いてあったが、「焼肉の臭い」がする。

粘膜を焼いているのだから、その臭いである。

(この臭いでご飯3杯はいけるな・・・)

などと、考えるほど、私は余裕で手術を受けていた。

片方2~3分ほどだろうか。

おそらく5分ほどで手術が終わった。

「お疲れ様でしたー。」

先生が声をかけてくれた。

「よく頑張ったね!」

先生の来ているアンパンマンのシャツのたくさんのキャラクターも私に労いの言葉をかけてくれた。

最後は、蒸気を鼻に吸い込むネブライザーを1~2分ほど行い、終了である。

お会計の時は、看護師の方が変わらず優しい笑顔で「お疲れさまでした。お会計は1万円です。」と声をかけてくれたので、私は快く1万円を支払った。

※手術代は、保険適用され、3割負担だと約1万円です。併せて薬局での薬代が数千円です。

今回は、手術当日の話をメインとするため、後日談は簡潔に書くこととする。

手術後の1週間は、鼻の中は炎症が起きているため、鼻づまりはひどくなる。

先生からは、あまり強くかまないようにとあったので、鼻水がたまってそうな時は優しくかんだ。

しかし、その鼻水がたまってそうな感覚の正体は、レーザーで焼いたところがかさぶたとなり、引っかかっているのだ。

そうとは知らず、「もう少しで鼻水が出そう」と、ほんの少しだけ強くかんだら、そのかさぶたがボロッと出てきた。そして真っ赤な鮮血もボタボタッと一緒に出てきた。

これが強くかんではいけない理由である。

もう強くかむのはやめよう、、、と、2回目の『かさぶたボロッ』をした時に、強く胸に誓った。

1週間後にもう一度病院に行き、術後の検査と鼻の中の掃除をした。

その日からは、鼻づまりとはおさらばの、ノンストレスな人生の始まりである。

私の脳のニューロン達も、十分に酸素が供給され、生き生きと働いてくれる。

手術の効果は、1~2年後にはなくなるらしい。

人の再生能力により、戻るようである。

その時はすぐ出術を受ける所存である。

もう怖くないのである。

鼻づまりで悩む皆さんにもぜひ、『鼻レーザー手術』を受け、エデンの園にお越しいただきたいのである。

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